
本記事は、第9回に渡って掲載される「ソフトバンクグループの易しい企業分析!」シリーズの第7回です。
第7回では、第2回と第3回で軽く触れた本題の企業分析に話を戻し、ソフトバンクグループの2020年3月期の決算を読むにあたってもっとも重要なポイントについてやさしく解説していきます。
実は、第2回でご紹介したSBGが2020年5月18日に発表した2020年3月期決算の大赤字にはカラクリがあったんです!
第7回では、みなさんにこのカラクリを完璧に理解していただけるようにやさしく解説していきます。
この記事を読むことで、
- ソフトバンクグループの決算をややこしくしている要因
- ソフトバンクグループの決算を読むときに重要なポイント
- ソフトバンクグループの大赤字のカラクリ
を知ることができます。
孫正義氏が決算説明会の登壇中に参加している記者たちに対してこのカラクリを正確に理解しているかを質問しましたが、
1人しか手を上げられず知らなかった記者たちを軽く叱責するというシーンがありました。
それぐらいこのカラクリを正確に理解できている方は少ないということです。
どうしても少しむずかしい内容が出てきてしまいますが、とにかくかみ砕いてなるべくわかりやすくなるようにしています。
今回も肩の力を抜いて、楽しむことに重点を置いて読み進めていってください。
この記事では、会社名などを(便宜上)下記のように表現します。
目次
ソフトバンクグループの決算をややこしくしている要因

ソフトバンクグループの決算をややこしくしている要因として、国際会計のルールがあります。
決算分析する上で理解しておくべき前提ですので、しっかりと理解しておきましょう。
要因は「国際会計のルール」
SBGは、SVFの四半期毎の実現(確定)損益だけでなく評価損益までも、SBGの決算の損益に計上しなくてはならないという国際会計のルールに縛られています。
第3回でご説明したとおり、保有している投資先の株式を売却したり、投資先の企業が倒産してはじめてSVFの損益が確定します。
つまり、評価損益の段階ではまだ損益は確定していません。
しかし、SBGは四半期毎にその時点でのSVFの評価損益までもSBGの損益に計上しなくてはならないというのが国際会計のルールです。
このルールがSBGの決算をややこしくしている大きな要因なので、しっかりと理解して覚えておきましょう。
ソフトバンクグループの決算を読むときに重要なポイント

この章では、SBGの決算を読むときに重要なポイントを解説します。
SBGの決算分析は少々やっかいで、書いてある数字を鵜呑みにすると分析としては見当ちがいな結果になってしまいます。
それは、SBGが通常の事業会社と異なるためです。
赤字についての考え方や、どのようにSBGの決算を読めばいいかを含めて深ぼっていきましょう。
表面上の数字だけを見てはいけない
SBGにとって非常に表面的な数字である営業損益や当期純損益という数字を単に真正面から見て、それをもとに投資判断をしてしまうと見当ちがいな結果をもたらします。
SBGの決算に関するニュースをテレビやネットニュースで見ると
- 「〜兆〜億円の営業利益を計上しました」
- 「〜億円の最終赤字を計上しました」
のように、会計上の利益に着目しているものがほとんどです。
しかし前述のとおり、SBGの会計上の利益にはまだ確定したわけではないSVFの評価損益が含まれています。
しかも、SVFの累計投資額は以前ご紹介したとおり8.8兆円と莫大なため、金額でみてしまうと数兆円規模の上下は起こり得ます。
さらに、そのSVFで動かしている金額はSBGの大きな比率を占めているので、結果的にSVFの業績によってSBGの決算がものすごく左右されるということになります。
まるっとキャッシュアウトをしたわけではない
「赤字」と聞くと「資産が減った」や「現金が出ていった」というイメージを持たれている方が多いのではないでしょうか?
事業会社を見る場合はそのイメージで問題ありません。(世の中は事業会社がほとんどです。)
しかし、SBGやSVFを見る際にはそのイメージのままではいけません。
それは、SBGが事業会社ではなく投資会社だからです。
投資会社などは前述のとおり国際会計のルールで評価損益を損益として計上しなくてはなりません。
ですので、「営業損失や当期純損失は出ているものの、別にキャッシュアウトをしたわけではない」というパターンが非常に多いのです。
事業会社とSBGの違いを理解することがキモ
ここで一度まとめます。
- SBGとSVFはその特性から評価損益を損益に計上しなくてはならないという国際会計のルールに縛られている。
- 一般の事業会社とは「営業損益」や「当期純利益」という言葉の持つ意味合いや中身がまったく異なる。
つまり、一般の事業会社とSBGとの差異に着目し、しっかりと理解をすることがSBGを分析するキモとなります。
ソフトバンクグループの大赤字のカラクリ

ここまで読まれたみなさんは、
「ややこしくしている要因が国際会計のルールだということはわかったけど、結局どう見ればいいの?」
と思われていらっしゃるのではないでしょうか?
ご安心ください。この章で、ご説明します。
- SBGを分析する上で必ずおさえるべきポイント
- SBGとSVFのそれぞれ保有する株式が会計上、どのような関係性になっているか
- SBGの決算で注目するページ
- 損益と株主価値の関係性
を、わかりやすく解説していきます。
混同しやすいのはコレ
よく混同しがちなのは、「SBGが持っている株式」と「SVFが持っている株式」です。
「株式を持っていれば見る必要があるというのはわかるけど、あとはどっちが持ってても変わらないんじゃないの?」
と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これは大きなワナです。
絶対に引っかからないでください。
- 「ふたつを正確に分類すること」
- 「これが違うことによってSBGの決算の見方がどう変わるのかということ」
を理解することで、SBGの分析は仕上がってきます。
もっともややこしいポイント
当シリーズおなじみの、こちらの図をご覧ください。
※SBGは、保有していたこの図の中央にある「Tモバイル」という企業の株式のほとんどを売却したため、この記事が公開された2020年8月時点では既にこの図から消えているものだとご認識ください。

「SBGが持っている株式」は、実現損益とならない限り評価損益のままではSBGの損益に計上することはありません。
- SBGが持っている株式とは
→有名どころで言えば上の図にある「SBKK」、「arm」、「Alibaba」など。
しかし、「SVFが持っている株式」は、今回何度もご説明したとおり実現損益とならずとも、評価損益をそのままSBGの損益に計上します。
- SVFが持っている株式とは
→有名どころで言えば上の図にある「Uber」、「Slack」、「WeWork」「Grab」など。
これは、「持っている」という状況は同じでも、
- 「SBGが持っているのか」
- 「SVFが持っているのか」
によって評価損益をSBGの損益に計上するか否かが変わるということを意味します。
つまり、SBGの会計上の「営業損益」や「当期純損益」は「SVFが持っている株式」が大暴落をしてしまうと、
どれだけ「SBGが持っている株式」が大暴騰をして、
「SVFが持っている株式」が大暴落して出してしまった評価損をカバーしていたとしても、
「営業損失」や「当期純損失」となってしまうということです。
孫正義氏が熱弁「SBGの決算でもっとも見るべき1ページ」
なんだかややこしくなってきてしまいましたね。
「いろいろ言ってるけど、結局どれをどう見ればいいの?」と思われた方は、
決算説明会でいつも孫正義氏の背後に映し出される「プレゼンテーション資料」の
「株主価値」が記載されているページを一番重要視する
ということを覚えておいてください。
そのページがこちらです。

孫正義氏は決算説明会で、「SBGの決算を見る際にもっとも見るべきなのはこのページであり、ほかのページはこのページを補足するページにすぎない」という発言をしています。
このページが何を表しているかというと、「SBGの株主価値」です。
わかりやすく言うと、先ほどご説明した「SBGが持っている株」と「SVFが持っている株」の価値などをすべて引っくるめて、そこから純有利子負債を差し引いた残りの価値のことです。
ちなみに、有利子負債とは、金利をつけて返済しなければならない負債のことです。
孫正義氏はこの「株主価値」こそがSBGの最重要指標だ!と明言しています。
筆者は、孫正義氏が言うように完全にこれのみを見るというのは危険だと思いますが、この指標が最重要指標であるという点についてはまったく同意をしています。
というのは、やはりSBGは投資会社であるため、分析をする際に「営業利益」や「当期純利益」というものを見ることにあまり価値がなく、
あくまでSBGがSVFなどを含めグループ全体で保有している株式の価値がどれだけ増加したか、ということに重きを置くべきだと考えているからです。
つまり、株主価値というのは、SBGの経営成績を示す包括的な指標であるということです。
「損益」と「株主価値」
どの会社が保有している株式の株価がどうなると、「損益」や「株主価値」がどうなるか、というのをまとめます。
費用と純有利子負債など、ほかの数字は変動しないと仮定します。
①SBGが直接保有している株式の株価が上昇し、そのまま保有(評価益)
- 「営業利益」や「当期純利益」には影響なし
- 「株主価値」は増加
②SBGが直接保有している株式の株価が上昇し、売却した(実現益)
- 「営業利益」や「当期純利益」に影響あり
- 「株主価値」は減少
③SBGが直接保有している株式の株価が下落し、そのまま保有(評価損)
- 「営業利益」や「当期純利益」には影響なし
- 「株主価値」は減少
④SBGが直接保有している株式の株価が下落し、売却した(実現損)
- 「営業利益」や「当期純利益」に影響あり
- 「株主価値」は減少
⑤SVFが直接保有している株式の株価が上昇し、そのまま保有(評価益)
- 「営業利益」や「当期純利益」に影響あり
- 「株主価値」は増加
⑥SVFが直接保有している株式の株価が上昇し、売却した(実現益)
- 「営業利益」や「当期純利益」に影響あり
- 「株主価値」は減少
⑦SVFが直接保有している株式の株価が下落し、そのまま保有(評価損)
- 「営業利益」や「当期純利益」に影響あり
- 「株主価値」は減少
⑧SVFが直接保有している株式の株価が下落し、売却した(実現損)
- 「営業利益」や「当期純利益」に影響あり
- 「株主価値」は減少
理解度チェック

ここで、ケーススタディを行います。
みなさんはここでご自身の理解度を確認しましょう。
*すべて評価損益とします。
また、ほかの数字の変動などは一切加味せず単純に考えることとします。
問題(1)
「Alibaba」の株式価値:10兆円上昇
Q. SBGの営業利益はどうなりますか?
問題(2)
「SBKK」の株式価値:2兆円上昇
「Uber」の株式価値:3兆円上昇
「Slack」の株式価値:1兆円上昇
Q. SBGの営業利益はどうなりますか?
問題(3)
「Alibaba」の株式価値:7兆円上昇
「Uber」の株式価値:3兆円下落
「Slack」の株式価値:2兆円下落
Q. SBGの営業利益はどうなりますか?
問題(4)
「Alibaba」の株式価値:5兆円上昇
Q. SBGの営業利益はどうなりますか?
Q. SBGの株主価値はどうなりますか?
回答
皆さん、いかがでしたでしょうか?
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下記ボタンからLINE@登録後に「SBG回答」とお送りいただければ、
問題の回答が確認できます。

まとめ
第7回では、第2回と第3回で軽く触れた本題の企業分析に話を戻し、
ソフトバンクグループの2020年3月期の決算を読むにあたってもっとも重要なポイントについてやさしく解説してきました。
冒頭でお話ししたSBGの2020年決算が大赤字となったカラクリは「国際会計のルール」だったのです。
こちらも、冒頭でも書きましたが、孫正義氏が2020年3月期の決算説明会の登壇中に参加している記者たちに対してこのカラクリを正確に理解しているかを質問しました。
しかし、1人しか手を上げられず、そのことに驚いた孫正義氏がこのカラクリを知らなかった記者たちを軽く叱責するというシーンがあったのです。
そのくらいこのカラクリを正確に理解できている方は少ないので、このシリーズを読んでくださっているみなさんにはぜひしっかりと理解していただきたいです。
「会計」は専門性を高めようとするとものすごく広く深いものです。
しかし、初学者の方がこのシリーズでSBGの決算をある程度理解するという目的であれば、
これまでご説明してきた「SBGは、SVFの評価損益を四半期毎にSBGの損益に計上しなくてはならない」ということが理解できていれば十分です。
極論ですが、これでみなさんは今後決算時に公開される「プレゼンテーション資料」にある「株主価値」のページさえ見れば、SBGの経営成績が前期に比べて良くなったのか悪くなったのかがわかることでしょう。
第8回では、これまでの内容のまとめに入ります。
はじめに第2回で概観したSBGの2020年3月期決算の着眼点を株主価値に移してもう一度見ていきます。
そのあと細かな部分を見ていき、2020年3月期決算を大赤字へと陥れた真犯人を見つけます。
第8回では、第2回とはまったく違う発見がみなさんを待っています。