
このシリーズでは、ソフトバンクグループの企業分析を初学者の方が理解しやすいようにやさしく解説していきます!
本記事は、全9回の「ソフトバンクグループのやさしい企業分析!」シリーズの第1回です。
全5回の記事を読み終えた時には、ソフトバンクグループの分析をつうじて企業分析ができるようになり、世界のビジネスの流れを考えられるようになります。 加えて、投資家のあいだで注目されているソフトバンクグループの今後についても、 事実に基づいた根拠があるご自身の考えを持てるようになります。 第1回では、ソフトバンクグループの実態や、複雑なグループ内の主要な組織関係について触れていきます。 一部どうしても複雑になってしまう点はありますが、基本的にとてもやさしく解説しているので難しく考える必要はありません。 肩の力を抜いて、楽しむことに重点をおいて読みすすめていってください。 目次 この記事では非常にむずかしいソフトバンクグループの企業分析を、 という点にフォーカスして初学者の方が理解できるように要点のみを、やさしく解説していきます。 実は昨今、日本に住んでいる方であれば知らない人はいないであろうあの巨大企業「ソフトバンクグループ」が倒産するのではないか、と言われています。 YouTubeでは公認会計士でさえそのように言っている動画が投稿されています。 しかし、ソフトバンクグループの企業分析を解説している多くの記事や動画では会計や税務などの専門用語が当たり前のように使われています。 それゆえに、初学者の方では非常に難しく感じてしまい手がつけにくい内容のものばかりです。 はたして、それは事実なのかこれから見ていきましょう! ソフトバンクグループとは、かの有名な孫正義さんが創業した、今や時価総額10兆円規模の日本を代表する企業です。 ここで質問です! 「ソフトバンクグループ株式会社」と、「ソフトバンク株式会社」が別の会社であるということはご存知でしょうか? では、「ソフトバンクグループ株式会社」とはどういう会社なのでしょうか? 「ソフトバンクグループ株式会社」は、「ソフトバンク株式会社」や「ヤフー株式会社」などを傘下に置く純粋持株会社です。 他の会社を支配することを主業務とするため、自ら製造や販売といった事業は行いません。 純粋持株会社の収入には、株式を持っている会社からの配当金や株式の売却益などがあります。
「ソフトバンクグループがヤバい!」を企業分析で解明する
ソフトバンクグループとは
ご存知でなかった方がこれまでイメージされてきた「ソフトバンク」というのは、おそらく「ソフトバンク株式会社」の方です。
「ソフトバンク株式会社」は下記画像でおなじみの、携帯電話などの通信サービスを提供している企業です。
孫正義会長兼社長は2018年5月9日の決算会見で、SBGを世界一のあらゆる企業群を運営する「戦略的持株会社」への移行を加速させる考えを表明しました。
それ以降は投資会社としての側面を強めてきています。
この記事では、便宜上
- 「ソフトバンクグループ株式会社」のことを「SBG(ソフトバンクグループ)」
- 「ソフトバンク株式会社」のことを「SBKK(ソフトバンクかぶしきかいしゃ)」
と呼びます。
ソフトバンクグループの複雑なストラクチャー
SBGの企業群は、とても複雑なストラクチャーとなっています。
以下の図は、特に有名な企業だけを非常にかんたんに表示しています。
SBGは直接保有しているある子会社の株式を別の子会社に移動させたりすることがあるため、下図はあくまで現段階の非常に簡易的なものであるということにご留意ください。

よく見かけるソフトバンクショップは何者?
街中でよく見かける通信サービスを提供しているSBKKは、SBGの連結子会社です。
SBGはそのほかに、中国の超巨大企業である「Alibaba Group(以下、アリババ)」の筆頭株主でもあります。
また、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(以下、SVF)」を経由して、
自動車配車サービスやオンラインフードデリバリーサービスを提供しているアメリカの「Uber Technologies(以下、Uber)」や、
チームコミュニケーションツールである「Slack Technologies(以下、Slack)」などの株式を保有しています。
2019年9月に話題となった「ヤフー株式会社」による「株式会社ZOZO」の買収や、2019年末に話題となった「ヤフー株式会社」と「LINE株式会社」の経営統合はすべてSBGの下で行われた出来事です。
2019年3月末時点でのSBGの子会社数は1,302社、関連会社数は432社、共同支配企業数は26社にも及び、SBGは名実ともに超巨大企業グループです。
こんなにも超巨大な企業が倒産するのではないかと言われているというのですから、皆さんの中にも驚かれた方がいらっしゃるのではないでしょうか?
「ソフトバンクグループのかしこさ」を企業分析で解明する

ここで、SBGを分析する際のおもしろいポイントをご紹介します。
第1回の記事の内容はこれで最後です。
SBGは非常にかしこい戦略をとります。
特に、2018年3月期に行われた節税スキームは圧巻で、多数のメディアで報道されました。
SBGの常軌を逸した節税スキーム
SBGは2018年3月期の決算で1兆円の純利益を計上しました。
しかし驚くべきことに、課税対象となる所得がなかったのです!
しかも、SBGは法人税を支払わないどころか還付金を受け取っていたのです!
これは一体どういうことなのでしょうか?
節税スキームの要(かなめ)は「ARM」!
この節税スキームで使われたのが、先ほどの図の中央に青い背景に白い文字のロゴを添付したARMという企業です。
まずは以下の図をご覧ください。

SBGは2016年9月に半導体製品の研究と開発を行うイギリスの「Arm Holdings(以下、ARM HD)」を3.3兆円で買収し、完全子会社化しました。
しかしARM HDは持株会社であり、ARM HDに付いていた3.3兆円の企業価値のほとんどがARM HDが保有していた子会社「Arm Limited(以下、ARM Limited)」の株式の価値でした。

そこでSBGは、ARM HDからSBGに対する配当としてARM HDが保有するARM Limitedの株式の75%を現物分配により取得し、意図的にARM HDの企業価値を著しく低下させました。
こまかい説明や計算を省くと、このときARM HDからSBGに現物分配されたARM Limitedの株式の金額はほぼそのまま「みなし配当」になります。

このみなし配当は税務上、海外子会社からの配当なので95%非課税となります。
これによりSBGは、3.3兆円分の株式のうち75%である約2.5兆円分を95%非課税で取得したのです!
ここでは、2.5兆円の5%である0.1兆円だけがSBGの課税所得になります。
更に節税スキームを深堀りしよう
次に、ARM HDに着目します。
ARM HDの企業価値は、ARM HDの企業価値のほとんどを占めていたARM Limitedの株式の75%をSBGに現物分配したことにより、
買収された2016年9月と比較すると25%である約9,000億円に低下しました。
今度はSBGの立場になって考えてみましょう。
SBGからすると、2016年9月に3.3兆円で買収したARM HDの企業価値が2.5兆円も低下して9,000億円になっています。
SBGはその企業価値が大幅に低下したARM HDの株式を、同じくSBG傘下のSVFなどに出資する形で譲渡を行いました。
そうすることにより、SBGはこの低下した2.5兆円分をそのまま株式譲渡損失とすることができたのです。

ここで、「SBGは損してなくね?」と思ったかたはするどいです!
- SBGはARM HDからARM Limitedの株式の現物分配を受けている
- さらにARM HDをSBGとは全く関係がない他社へ売却したのではなく同じくSBG傘下のSVFに売却した
- SBGからすると株式の移動はあるが、全体で見たときには何ひとつ変わっていない
- であれば、実質的には損失が発生していないのではないか?
というロジックが成り立ちます。
そうなんです!
グループ全体で見るとどの企業が株式を保有しているかという点が変わっただけにもかかわらず、SBGは2.4兆円の損失を作り出すことに成功しました!
これが、SBGの常軌を逸した節税スキームの全貌なのです。
法律違反ではないの?
結論、法律違反ではありません!
一見非常にズルく違法性に満ち溢れているのではないかと思えてしまうような案件ですが、
「ひとつひとつの取引で見てもグループ全体の動きで見ても法的な問題は一切ない」
、というところがこの節税スキームのポイントです。
決算発表によってこれが明るみとなり、SBGに対して世間の批判が殺到しました。
東京国税庁はSBGに対して、2018年3月期に約4,000億円の申告漏れを指摘しましたが、SBGが修正に応じてもなお赤字だったことから、過少申告加算税などの追徴は発生しませんでした。
そして財務省は、SBGが行ったような企業の買収(M&A)に絡んだ節税の防止策を講じることとなりました。
この節税スキームを実施したSBGの行動が倫理的にどうかという点については個人の価値観によるものなので言及しませんが、この一件はSBGの節税に対する執念と法律の抜け穴を突くかしこさが垣間見えた出来事でした。

まとめ
第1回では、ソフトバンクグループがヤバい!ということを皮切りに
- ソフトバンクグループとは
- ソフトバンクグループの複雑なストラクチャー
- ソフトバンクグループのかしこさ
という内容についてやさしく解説していきました。
本記事を通して、ソフトバンクグループの企業分析のおもしろさを少し味わっていただけたのではないかと思います。
第2回では、そんなソフトバンクグループが2020年5月18日に発表した2020年3月期(2019年度)の決算についてやさしく解説していきます。
・巨大グループ企業の実態や、表面にでてこない動きを知ることができる!